桜の木の美しさにどこか違和感を持っていた。

 

大学生にとって桜はイベントの一つ。

ハロウィン、クリスマス、バレンタイン、ホワイトデー、並んで、桜を見ることもイベントである。

 

酒を飲み、羽目を外し、叫び走り解放感に溢れた人間たちの下に根を伸ばし、それらを見守るように頭上に広がる桜の花。

 

 

本当に恐ろしいものだ。

恐ろしく美しい。

凛と美しく花を咲かせた後に、そのような下劣な人間を見守る余裕すらある。

 

 

桜、君の寛容さにわたしは感動する。

君にはどんな過去があるのだろうか。

今までどんな人間を見てきた?受け入れてきた?

 

わたしが桜だったら、木の幹に毒を持つだろう。たやすく触ってくれるなよ、と寄り掛かってくる人間の肌が赤く腫れて痒みが治らないような、毒を持った桜になるだろう。

 

 

酒を飲んで足元がふらつき、幹に寄りかかったとき、人はふと静かで冷たい空気が木の下に流れていることに気づくだろう。

 

桜、君は冷たい、とっくに感情を失っている。この木の幹に美しい女が閉じ込められているようだ。

 

桜は抱きしめてくれるわけではない、ずっと私を見つめている。


何も言わない桜は意見がなく弱い女ではない、

全てを受け入れてじっとそばにいてくれる

強さを持つ女である。

 

 

花見という文化。

果たして人々は、本当に花を見ているのか。

いや、花たちが人間を見ているかもしれない。

 

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